クルマづくりサポート

クルマづくりサポート#13【量産試作】

量産仕様が決まりその仕様で認証取得が出来れば、いよいよ量産というゴールが見えてきます。ここまでくると原価もかなり正確に把握されていると思います。そして、この時期には当初思っていたよりもはるかに高い原価が積み上がるケースが多いです。

量産試作とは、「量産型・量産工程で製作した部品を量産相当の工程で組み立てる試作」のことです。0からのクルマづくりでは量産ラインはまだ未完成の場合が多いと思いますが、出来るだけ量産相当の部品と方法で試作し最終チェックを行います。

#11 試作・評価では、試作は2~3回がいっぱいいっぱいだと書きました。この量産試作は最後の1回になります。大手OEMが行うノウハウを最大限に生かした効率的大規模開発と異なり、0からのクルマづくりでは量産試作でも不具合や問題はたくさん残っており、改良を繰り返すことになります。量産というゴールは見えていますが、この構造でいいのか、この仕様で問題ないのか、と日々自問自答することになります。それだけクルマを世の中に出して一般の方に安全に乗っていただくことは難しいものです。そして、ほとんどの大手量産車は安全性に優れ信頼性があり品質や耐久性も申し分ないものです。そのため、お客様の品質に対する目も肥えています。

課題や不具合はたくさんあるものの、どこまで改良するかを自分たちで線引きしないといつまでも検討が終わらずに量産に移行できません。ここは分岐点とまでは言えませんが、あれもこれもと考えてしまうとゴールに行けないという意味では大事なポイントになります。

また、この頃には周りにもたくさんの協力者やサポートしてくださる企業様が増えているはずです。そして、クルマが形になってくるとその分だけ周りからの意見も増えます。「こうした方がいい」「これではダメだ」「他車はこんなことをしている」など。クルマは皆が所有したり普段から身近にあるものですので、ものを見ると誰でも意見も言いやすいです。しかし、ここまでの茨の道を一歩ずつ歩んできた開発チームだからこそ理解し決心できることがたくさんあります。協力していただける方々のご意見は大切ですが、開発したクルマを一番理解している自分たちで根拠を持って大胆に決めていくことが重要です。

私が経験したクルマづくりでは、量産試作車が完成してから量産開始まで1年ほどかかりました。「あれもこれも改良しないと、原価ももっと見直さないと」と苦しい時期でした。産みの苦しみを痛感していましたが、開発スタートした時からに比べると仲間が増えて意見をどんどん言い合えるようになったことで、ブラッシュアップやいろいろな見直しができるチームになっていました。クルマづくりはチームづくりそのものだと日々実感しました。

認証取得していればナンバープレートをつけて公道走行が可能になります。テストコースでは気づかない、市街地走行でしか得られない様々な情報や発見があります。たくさん走れば走る分だけ新たな発見があります。安全に留意しながらも公道での走行距離を伸ばすことは開発にプラスになる情報が手に入ります。 ナンバー取得をゴールと思わず、コツコツとデータを得ることが非常に重要です。課題や不具合を見つけて改良し続けることが「いっぱしのOEM」になるための唯一の道だと思います。