クルマづくりサポート

クルマづくりサポート#12【分岐点5:法規適合・認証】

「基準(法規、評価基準、設計・生産要件)を全て理解して紙に書き出すこと。過去の代表的な車両の構造や考え方をしっかり調べて頭に入れておくこと。この2点をしっかりやれば誰でも一流のエンジニアになれる。」

上の言葉は、私が大手OEMで若手だった時代にエンジニアの神様のようなバリバリの上司から頂いた言葉です。「基準を理解せずに線を引き始めるなんてアホや」とも(笑)。独立して設計や設計以外の仕事にも取り組む今でも、この言葉をいつも意識するようになりました。

「道路運送車両の保安基準」は日本でクルマの認可を得るには避けて通れない法規です。この保安基準は国交省のホームページに行けば誰でも原文を見ることができます。そしてこの保安基準の原文、むちゃくちゃわかりにくいです。法令文書や公文書の堅苦しい表現は理解するのに結構苦労しますが、保安基準も同じく苦労します。

でも、わかりにくいからといって後回ししても設計は出来ません。どんな法規があって、法規適合する基準は具体的に定量的にどのような要件なのかをしっかり理解しないと何度も手戻りすることになります。保安基準が時々改訂されることにも注意が必要です。最新の保安基準の内容を常にチェックして理解しておくことがクルマづくりには必要です。非常に地道な活動です。

そして何よりも、この保安基準適合を証明することが非常に難しいです。

クルマづくりの当初は、必死に保安基準原文を読み込んで内容を理解し、記載されている具体的な試験方法や基準に沿って自分たちで試験の準備や車両を用意して測定していました。
しかし、そのプロセスや結果を国交省や地方運輸局の担当の方に説明しても認めていただけません。担当の方からは「その試験設備は信用出来るものですか?きちんと基準に沿って校正された測定機器ですか?試験方法は本当に保安基準の内容と合致していますか?」と問われます。自分たちでDIYでやっても、それを第三者が客観的に見て問題ないと判断できなければ認可は得られません。ここが難しさのポイントです。

つまり、第三者が認める機関で基準に則った試験を実施しレポートを出すことが必要になります。実績のある大手OEMでの実施であればもちろんOKでしょうが、試験を受託してくれる余裕はOEMにはありません。OEMにとってはメリットはありませんし、前例もほぼありません。

ではどうするか。第三者が認めて基準に則った試験を実施してくださる機関を探さなければなりません。保安基準適合試験の内容によってはOEM以外で実施する場合、海外機関に依頼しないと出来ないものも私の経験上ではありました。

国交省や地方運輸局の方も、どこのどんな会社かわからない人がクルマを作りたいと相談に来た場合、「もし車両に何かあって事故でも起こってしまったら認可を出した側の責任も問われるかもしれない」と心配されるのは容易に想像できます。そんな心配を少しでも減らしていくことが相談する開発側の責務です。サプライチェーン構築と同じように、国交省や運輸局の方との信頼関係を築き、信用していただくことがとても大切です。その信頼を得るには、「保安基準を読み込んでいません」とは言えません。しっかりと理解して、愚直に不具合がでない設計を徹底していることを伝えなければ、仮に私が国交省の担当者だったとしても信用しないと思います。

法規適合・認証の分岐点は、保安基準の中身を理解することや試験機関を探すことではありません。愚直に保安基準を理解し、適合する設計を行い、国交省や地方運輸局の担当の方に信頼を得る行動言動が出来るかどうかの方が大切です。ここが歴史と信頼のある大手OEMとのとてつもなく大きな違いです。