クルマづくりサポート

クルマづくりサポート#4【分岐点1:部品選定】

前さばきで目的・企画・手法を決定し、「自社で設計し、自社で生産する」と決めた場合、その目的や企画に合わせて自分たちで開発をスタートさせることになります。ここからが本格的なクルマづくりのスタートです。

自分たちで車両を開発するのは非常に苦しいものの、エンジニアにとっては苦しみながらもめちゃやりがいのある活動です。想像するだけでワクワクします。

前述のように、どの部品を搭載するのかを決めて設計を進めていきますが、一度決めたその部品が変わることで設計変更が発生し、さらには企画まで変わってしまうこともあります。

設計の進め方の一例としてブレーキシステムを挙げると、以下になります。

①車両企画から車両LWH、ホイールベース、トレッド、タイヤサイズ、乗車人数と位置、大物搭載物の配置など、車両パッケージの検討。
②パッケージ検討と初期設計を進めながらラフに車重、軸重、重心位置、重心高さのあたり付け。
③商品性や保安基準を満たす制動力を得るローター径、キャリパーピストン径、マスターシリンダー径などの算出。
④③を満たし入手可能なローター、キャリパー、マスターシリンダー、Pバルブ探し。
⑤④の各部品で狙いの商品性および保安基準適合試験をクリアするか実車評価の実施。

大雑把に書くと、このような流れです。

ナンバー取得不要でサーキットや私有地だけをご自身で走行するのであれば、自分好みのかっこいいモノブロック対向6potキャリパーなどをアフターマーケット品から選択するのも自由ですが、量産して一般のお客様に販売し公道走行を目指すならば、見た目や一部の性能だけでなく保安基準適合、入手性、原価、部品の信頼性、補給部品設定可否、鳴きやダストの軽減なども踏まえて部品を探さなければなりません。

この部品選定は、設計、デザイン、サプライチェーン構築、原価算出などの活動に関係します。

「うちのクルマには最低でもあのスポーツカーに搭載されている対向4potとツーピースローターが必須!」と希望したとしても、その仕様で理想制動力曲線に近づけるブレーキシステムが構築できるのか、パッドの摩擦係数は?マスターシリンダー径は?Pバルブは?リアキャリパーはPKB一体型or別体?などの仕様や入手性も含めて検討する必要があります。「見た目・イメージ」と「理想に近いブレーキ性能の実現」は必ずしも一致しません。

イメージ先行で部品選定し設計を進めていたが、保安基準に適合しなかった、理想制動力曲線に近づけられない仕様だった、などの課題が出て変更を余儀なくされる。サプライチェーン、入手性、保安基準適合、品質、原価など総合的に判断すると、とあるコンパクトカーに搭載されている片押し1potキャリパーが最善策。スポーツカーのイメージ先行で対向4potキャリパーを選定した結果、大きく手戻りするはめになる。

最善策である片押し1potキャリパーの見た目を気にするのなら、車両の価格帯を下げて本格スポーツカーよりもエントリースポーツ寄りに企画を修正しようか。などということもクルマづくりではあり得ます。

このやり直しもクルマづくりの醍醐味と言えます。

メンバー同士で「あーでもない、こーでもない」と言いながらいろいろ検討し、モノを買って試してみて、結果をみて、また次の対策を考える。時間とお金に余裕があれば是非やりたい活動ですし、それが経験となり武器になります。でもゴールまでの期間と予算に限りがあるならば、大きな手戻りばかりしている場合ではありません。

部品選定においても、大きくプロジェクト進捗の足を引っ張る分岐点が存在します。
このような分岐点に立った時に、過去の失敗事例を知った上で適切な選択肢を選べるようにサポート出来れば、クルマづくりを一歩前に進められると思います。